- 更新日:2025年7月31日
- 公開日:2025年7月31日
保育園の未来を託す選択肢―M&Aの活用で実現する事業承継と成長戦略のすべて
1. なぜ今、保育園にM&Aという選択肢が増えているのか
1-1. 保育園経営を取り巻く環境変化
・少子化の加速と待機児童政策の転換
少子化の進行により、今後は定員割れのリスクが高まると予想されます。一方で「待機児童ゼロ」を目指した政策が転換期を迎え、行政支援の方向性も変化しています。こうした中、経営の持続性を見直す動きとしてM&Aが注目されています。
・人手不足と経営者の高齢化
保育士不足は慢性化しており、園の運営に支障をきたしているケースも少なくありません。また、経営者自身の高齢化も進んでおり、後継者不在のまま経営を続けることに限界を感じる法人や個人事業主も増えています。
・都市部と地方で異なる経営リスク
都市部では人材確保や競争激化が課題となり、地方では園児数減少による採算性の低下が問題視されています。エリアによって抱えるリスクが異なる中、M&Aはリソースの集中や再編を可能にし、柔軟な経営対応を支援する手段となっています。
・保護者ニーズの多様化と園の対応限界
延長保育や一時保育、障害児保育など、保護者のニーズは年々多様化しています。こうしたニーズにすべて対応するには人手も設備も不足しがちで、小規模園や単独運営園では対応に限界が出やすく、外部との連携を模索する動きが広がっています。
1-2. M&Aが注目される3つの理由
・後継者不在の問題をスムーズに解決
多くの園が直面する「後継者がいない」という問題に対し、M&Aは円滑な事業承継の選択肢として注目されています。信頼できる相手に園を引き継ぐことで、職員や園児の環境を守りつつ、経営者は安心して引退することが可能になります。
・ブランドや園児を守る手段としての活用
M&Aでは、園名や保育方針、雇用関係を維持したまま譲渡できるケースも多く、地域に根付いた園のブランドを守る手段として活用できます。単なる売却ではなく、「継続」のための戦略的判断として活用され始めています。
・資金調達や拠点拡大を狙う買収側の動き
一方、買収側では人材確保や拠点拡大を目的に、既存の園を買収して事業展開を加速するケースが増加中です。保育業界に新規参入したい企業や、他業種からの参入も目立っており、売却のタイミングを見極めることが重要です。
・小規模園にもチャンスが広がる時代背景
かつては大規模園に限定されがちだったM&Aも、現在では小規模園や個人経営園でも注目されるようになりました。地域密着型の園や専門性の高い園は、独自の強みとして買収先から評価されやすく、選ばれる機会が増えています。
1-3. 保育業界におけるM&Aの実績とトレンド
・近年増加する保育M&Aの件数と傾向
保育業界におけるM&Aの件数は年々増加傾向にあり、特に2020年代に入ってからは事業承継型や成長戦略型の譲渡・買収が活発化しています。コロナ禍を経て、経営の安定と継続性を重視する動きが背景にあります。
・社会福祉法人・株式会社間の取引動向
社会福祉法人や学校法人は営利法人とは異なる規制がありますが、M&Aや運営譲渡は可能です。近年では、株式会社が法人保育園を引き受けるケースも見られ、適切な手続きと調整により多様な組み合わせが実現しています。
・買い手企業のタイプと成長戦略
買収側としては、保育事業に特化した運営法人だけでなく、介護・医療・教育など隣接業種からの参入も見られます。成長戦略の一環として保育園をM&Aで取り込むことで、シナジー効果を狙う企業が増えています。
・今後の制度改正とM&A市場への影響
こども家庭庁の設立や保育制度の見直しにより、今後のM&A市場にも影響が出る可能性があります。補助金制度や配置基準の変化は、買収の条件や投資判断に直結するため、政策動向を注視しながらの判断が求められます。
2. 保育園M&Aの基本知識と進め方
2-1. M&Aの種類と選択肢の違い
・株式譲渡と事業譲渡の違いとは
M&Aには「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つの代表的な方式があります。株式譲渡は法人そのものを引き継ぐ形式で、契約や職員などの継続性が高いのが特徴です。一方、事業譲渡は特定の事業だけを切り出して引き渡す方法で、対象範囲が明確で柔軟性があります。
・社会福祉法人はM&Aできるのか?
社会福祉法人は営利企業とは異なり、株式が存在しないため、通常のM&Aとは異なる手法が必要です。代表的なのが「運営譲渡」や「法人合併」で、所轄庁の承認が必要です。慎重な手続きが求められますが、適切な進め方によりM&Aは実現可能です。
・運営委託や業務提携という選択肢
M&A以外にも、第三者に運営を委託する「運営委託」や、一部業務のみを協力する「業務提携」などの方法があります。これらは園の独立性をある程度保ちながら経営改善や人材支援が受けられるため、段階的な引継ぎを希望する場合に有効です。
・M&Aによる統合後の体制設計の注意点
M&A後の統合では、職員配置や園の保育方針、経営管理体制の調整が重要です。文化や働き方が異なる組織が一つになるため、丁寧な説明と段階的な対応が求められます。保護者対応も含めた「ソフト面」での体制設計が成功の鍵となります。
2-2. 売却側が準備しておくべきこと
・財務・契約・人事の棚卸しと見直し
M&Aに備えてまず行うべきは、園の財務状況、各種契約書、人事体制の棚卸しです。収支の透明性や就業規則の整備は、買い手にとって重要な評価材料になります。資料を整理し、問題点があれば早めに改善しておくことが望まれます。
・職員・保護者への影響をどう抑えるか
園の売却が決定しても、いきなり職員や保護者に公表するのではなく、段階的に丁寧な説明が必要です。急な変更は不安や誤解を生み、信頼を損なう可能性があるため、タイミングと伝え方を慎重に検討することが大切です。
・秘密保持と情報開示のバランス
M&A交渉では、候補者に情報を開示しながらも、園の関係者に不要な不安を与えないことが求められます。秘密保持契約(NDA)を結んだ上で情報開示を段階的に進め、信頼できる仲介者を介してやり取りするのが一般的です。
・仲介会社・専門家の選定基準
M&Aを成功させるためには、業界に精通した仲介会社や顧問弁護士・税理士の存在が欠かせません。特に保育業界特有の制度や法令に詳しい専門家を選ぶことが、スムーズかつ納得感ある交渉・契約へとつながります。
2-3. 買収側の視点と交渉の進め方
・候補園の選定基準と優先ポイント
買収側にとって重要なのは、候補園が自社の経営方針や保育内容と合致するかどうかです。立地条件や園児数、職員の構成、園の評判など、多角的に評価を行い、将来的な事業成長との相性を見極めることが求められます。
・価格評価の方法とデューデリジェンス
M&Aの価格は単に収益だけでなく、資産・負債、保育士の定着率、施設の状態なども含めて総合的に評価されます。買収前には「デューデリジェンス(精査)」を行い、リスクの把握と適正な条件設定を行うことが重要です。
・スムーズな引継ぎのための条件交渉
買収条件の交渉では、価格だけでなく、職員の雇用継続や保育方針の維持なども検討対象となります。売り手と買い手の信頼関係を築き、互いの希望を尊重しながら条件を調整することで、円滑な引継ぎが実現します。
・買収後の運営統合と保育の質確保
買収が完了した後は、運営体制の一本化とともに、既存の職員や保護者との関係性の再構築が必要です。保育の質を落とさないようにするためには、現場との対話を重ねながら、段階的に統合を進めていくことが成功の鍵です。