- 更新日:2025年7月23日
- 公開日:2025年2月1日
保育ICTを導入を成功させるポイントと、導入前の検討や準備について
1. ICT化の必要性と導入の価値
1-1. 手書き記録とICTシステムの比較
従来の紙の記録管理では、手作業による記入や情報の整理が負担となり、検索や共有にも時間がかかっていました。ICTシステムを導入することで、データ入力が迅速に行え、記録が自動保存・分類されるため、必要な情報を即座に検索可能になります。また、クラウドを活用すれば、保育士間や保護者との情報共有もスムーズになり、園児の健康管理や業務の最適化が実現できます。これにより、保育士の負担を軽減し、より効率的な運営が可能になります。
記録作業の効率化と時間短縮
従来の手書き記録では、保育士が日々の出来事や園児の健康状態を手作業で記入し、紙で管理していました。しかし、ICTシステムを導入することで、デジタル入力が可能となり、記録作業が大幅に効率化されます。特に、タブレットやスマートフォンを活用すれば、現場での記録が瞬時に完了し、作業時間を短縮できます。また、入力されたデータは自動的に保存・分類されるため、過去の記録を探す手間も省け、保育士の負担が軽減されます。さらに、ミスや記入漏れを防ぐためのアラート機能を備えたシステムを導入することで、より正確なデータ管理が可能となります。
情報の即時共有と一元管理
ICTシステムを導入することで、記録データを保育士間でリアルタイムに共有できるようになります。これにより、シフト制で勤務する保育士同士が円滑に情報を引き継ぐことが可能となり、園児一人ひとりの状況を適切に把握できます。また、保護者とも直接データを共有できる機能を備えたシステムを活用すれば、連絡帳をデジタル化し、保育園と家庭の連携が強化されます。さらに、クラウドベースのシステムを導入すれば、どのデバイスからでもアクセス可能となり、管理者が全体の状況を迅速に把握できるメリットもあります。
二次利用による業務の最適化
ICTシステムによって蓄積されたデータは、単なる記録にとどまらず、業務改善や分析にも活用できます。例えば、園児の体調変化や成長記録をグラフ化することで、個別の傾向を把握しやすくなります。また、登降園の時間や食事内容の記録を活用して、保育プログラムの改善や、より適切な保育計画の立案が可能になります。さらに、データをもとに保護者へ適切なアドバイスを提供することもでき、園全体のサービス向上につながります。このように、ICTシステムを導入することで、単なる記録作業の効率化だけでなく、データを活用した保育の質向上が実現できます。
1-2. 保育のDX(デジタルトランスフォーメーション)化の本質
ICT導入の目的は、単なるペーパーレス化ではなく、保育業務全体を変革することにあります。業務プロセスを最適化し、記録作業の負担を軽減することで、保育士はより多くの時間を子どもと向き合うことが可能になります。さらに、データを活用した保育プランの提案や、業務の自動化により、保育の質の向上と職員の負担軽減を実現します。ICTを導入することで、業務効率化だけでなく、より持続可能で質の高い保育環境を築くことができます。
単なるペーパーレス化ではない本質的な変革
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、単に紙の記録をデジタル化することではなく、保育業務そのものを変革することが目的です。例えば、ICTシステムを活用して業務プロセスを最適化することで、保育士が記録業務に費やす時間を減らし、より子どもと向き合う時間を確保することができます。また、データを活用することで、園児一人ひとりに適した保育プランを提案できるようになり、より個別最適化された教育・保育を提供することが可能となります。DXの本質を理解し、単なるデジタル化にとどまらず、業務の本質的な改革を目指すことが重要です。
ICT活用による業務プロセスの最適化
ICTシステムを活用することで、保育業務全体の流れを最適化できます。例えば、登降園管理をICカードやアプリで自動化することで、毎日の手作業での記録を不要にし、保護者とのやり取りもスムーズにできます。また、園内での業務フローをデジタル化することで、報告書や各種書類の作成時間を削減し、業務負担を軽減することができます。さらに、データを蓄積することで、定期的な業務改善の分析や、スタッフのシフト管理の最適化にも役立てることができ、よりスムーズな運営が可能になります。
保育の質向上と職員の負担軽減
ICTシステムの導入は、業務効率を向上させるだけでなく、保育の質を向上させることにも貢献します。例えば、園児の成長記録をデジタル化し、写真や動画と共に保存することで、保護者と共有しやすくなります。また、AI技術を活用して保育士の記録業務を補助する機能を導入すれば、記録作業の負担が軽減され、保育士はより子どもたちと接する時間を増やすことができます。さらに、システムを活用して職員の業務負荷を適切に分配することで、保育士の労働環境の改善にもつながります。これらの変革によって、より持続可能な保育環境の構築が可能になります。
1-3. アナログとデジタルのバランス
ICT化できる部分とアナログの良さを活かす部分
ICTシステムを導入する際には、全てをデジタル化するのではなく、アナログの良さを活かすことが重要です。例えば、連絡帳をデジタル化することで保護者との情報共有がスムーズになりますが、子どもが描いた絵や手書きの記録は紙媒体として残すことで、成長の記録としての価値を維持できます。また、保育士の直感や経験に基づく判断も、システムによる分析と併用することで、より的確なケアが可能になります。ICT化を進める際には、現場の意見を取り入れながら、デジタルとアナログのバランスを考えた運用を行うことが重要です。
現場に適したシステム導入の考え方
ICTシステムを導入する際には、現場のニーズに合ったシステムを選定することが重要です。例えば、タブレットの操作に慣れていない職員が多い園では、シンプルなUIのシステムを選ぶことで導入がスムーズになります。また、手書きの記録が必要な場面もあるため、手書き入力をサポートする機能を持ったシステムが適している場合もあります。ICT導入は単なるシステムの追加ではなく、現場の負担を減らし、業務の効率を向上させることが目的であるため、導入前にしっかりとしたヒアリングを行い、保育士が無理なく使える環境を整えることが求められます。
ICT活用と子どもとのコミュニケーションの両立
ICT化を進める中で注意すべき点の一つが、子どもとのコミュニケーション時間を確保することです。記録業務がデジタル化されることで、保育士が端末の操作に集中しすぎてしまうと、子どもとの直接的な関わりが減ってしまうリスクがあります。そのため、入力作業が最小限で済む音声入力や、写真を活用した自動記録機能などを取り入れることで、保育士の負担を減らしながらICTの利点を活かすことが可能です。ICT導入の目的は業務効率の向上だけでなく、保育の質を向上させることにあるため、子どもと向き合う時間を確保する工夫が重要となります。
2. 導入時のよくある質問と注意点
2-1. インターネットセキュリティの考慮
保護者や職員の個人情報の管理
ICTシステムを導入する際には、保護者や職員の個人情報を適切に管理することが不可欠です。園児の成長記録や健康情報、登降園時間などのデータは機密性が高いため、適切なセキュリティ対策を講じる必要があります。データの暗号化やアクセス権限の管理を徹底することで、不正アクセスや情報漏洩のリスクを防ぐことができます。また、個人情報を扱うシステムでは、管理者が定期的にセキュリティ設定を見直し、適切な対応を継続的に行うことが重要です。
クラウドサービスの選定とセキュリティ対策
保育園向けICTシステムには、クラウドベースのサービスが多く提供されています。クラウドを活用することで、複数のデバイスからアクセスできる利便性が高まりますが、データの保管場所やアクセス管理の厳格化が求められます。国内の信頼できるデータセンターを利用しているか、強固な認証システムを備えているかを確認し、セキュリティレベルが高いサービスを選定することが重要です。また、万が一のシステム障害に備えて、定期的なバックアップを取ることで、データの保全性を確保できます。
不正アクセス対策とデータ保護
ICTシステムを導入することで利便性が向上する一方で、不正アクセスやデータ流出のリスクも伴います。対策として、定期的なパスワード変更を促し、二段階認証の導入を検討することが推奨されます。また、端末の紛失・盗難による情報漏洩を防ぐため、リモートワイプ機能を活用してデータを遠隔削除できる仕組みを導入することが効果的です。システムを運用する上で、保育士や職員へのセキュリティ教育も欠かせません。情報管理のルールを策定し、定期的な研修を行うことで、全体のセキュリティ意識を高めることが求められます。
2-2. Webブラウザとアプリの違い
アプリとブラウザのメリット・デメリット
ICTシステムを導入する際に、Webブラウザベースのシステムと専用アプリのどちらを選択すべきかは重要な検討事項です。Webブラウザベースのシステムは、特定の端末に依存せず、PC・タブレット・スマートフォンからアクセスできる利点があります。一方で、専用アプリはオフライン環境でも一部機能を利用できることが多く、利便性が高い点がメリットです。ただし、アプリの開発にはコストがかかり、OSのアップデートに伴う対応が必要になるため、導入時には長期的な運用コストも考慮する必要があります。
保護者・職員の使いやすさを考えた選択
保護者や職員がスムーズにICTシステムを利用できるかどうかも、Webブラウザとアプリの選択の重要なポイントです。例えば、保護者が登降園管理や連絡帳機能を頻繁に利用する場合、スマートフォンアプリのほうが利便性が高いことが考えられます。一方で、職員が主にデータ管理や記録業務を行う場合、PCやタブレットで使いやすいWebブラウザベースのシステムが適していることもあります。対象ユーザーの利用シーンを想定し、最適なシステムを選択することが重要です。
システム運用とメンテナンスの視点
システムの運用とメンテナンスも考慮する必要があります。Webブラウザベースのシステムは、開発者側がサーバー上でシステムを一元管理できるため、アップデートや不具合修正が容易に行えます。一方で、専用アプリは、ユーザーが個々の端末でアップデートを行う必要があり、最新バージョンに統一するまで時間がかかることがあります。また、アプリの開発・運用にはAppleやGoogleの審査プロセスが必要となるため、新機能のリリースに時間がかかることも考慮しなければなりません。
2-3. 保育園に適したICTツールの選定
シンプルで直感的な操作性
ICTシステムを導入する際には、シンプルで直感的な操作が可能なツールを選定することが重要です。保育士や職員は、日々の業務で忙しく、複雑な操作が必要なシステムでは十分に活用できません。そのため、画面デザインが分かりやすく、タップやスワイプといった直感的な操作が可能なシステムが求められます。また、音声入力機能やテンプレートを活用できるシステムであれば、記録作業を効率化できるため、より業務負担の軽減が可能です。
保護者との連携機能の有無
保護者との情報共有機能が充実しているかどうかも、ICTシステム選定の重要なポイントです。例えば、登降園管理や健康管理、連絡帳のデジタル化が可能なシステムでは、保育園と保護者の間の情報共有がスムーズになり、連絡の抜け漏れを防ぐことができます。また、アプリのプッシュ通知機能を活用することで、重要な連絡を確実に届けることができるため、保護者の利便性も向上します。これにより、園と家庭の連携が強化され、より良い保育環境の構築につながります。
保育士の負担を減らす機能とサポート体制
ICTシステムの導入においては、保育士の業務負担を軽減できるかどうかも重要な視点です。例えば、記録の自動保存機能や入力補助機能を備えたシステムであれば、日々の作業がスムーズに行えます。また、操作が難しいシステムでは導入効果が十分に発揮されないため、導入前のトライアル期間や研修を提供するベンダーを選ぶこともポイントとなります。さらに、導入後のサポート体制が整っているかどうかも確認し、トラブル発生時に迅速に対応できる環境を整えることが重要です。
3. ICTシステム導入時の選定ポイントと技術的課題
3-1. ICTシステムを選定する際のポイント
保育園の業務フローに適した機能を備えているか
ICTシステムを選定する際には、保育園の業務フローに適した機能が備わっているかを確認する必要があります。例えば、登降園管理や食事・午睡記録など、日常業務を効率化する機能が搭載されているかどうかが重要です。また、業務に適したレポート機能やデータ分析機能があれば、園の運営改善にも活用できます。導入前に現場のニーズを明確にし、それに合った機能を備えたシステムを選ぶことが求められます。
サポート体制と導入後の運用コスト
ICTシステムは一度導入すれば終わりではなく、運用を継続するためのコストやサポート体制も考慮する必要があります。例えば、システムの利用料や保守費用が適切であるか、トラブル時のサポート対応が迅速に行われるかなどを確認することが大切です。特に、長期的に使用することを前提とする場合、導入後のサポートが充実しているベンダーを選ぶことが、システムの安定運用につながります。
他のシステムとの連携が可能かどうか
ICTシステムを選定する際には、他のシステムとの連携が可能かどうかも重要な要素です。例えば、給与管理システムや園児の健康管理システムなど、すでに使用しているシステムとの連携がスムーズに行えるかどうかを確認することが求められます。異なるシステム間でデータを共有できれば、二重入力の手間を削減でき、業務の効率化が図れます。そのため、API連携やデータのエクスポート機能が充実しているかを確認し、シームレスな運用ができるシステムを選定することが重要です。
3-2. ブラウザのアップデート対応
ICTシステムが主要ブラウザの最新バージョンに対応しているか
ICTシステムを円滑に運用するためには、Google Chrome、Microsoft Edge、Firefox、Safariなど主要なブラウザの最新バージョンに対応していることが不可欠です。ブラウザのアップデートが頻繁に行われるため、システムがそれに適応できる設計になっているかを確認することが重要です。特定のブラウザに依存しているシステムは、アップデート時の互換性問題が発生しやすく、動作の不安定さにつながる可能性があるため注意が必要です。
保育園側でのアップデート管理の必要性
ICTシステムを導入した場合、保育園側でもブラウザの管理が求められます。特に、自動更新が有効になっている場合は、システムの動作確認が完了する前にアップデートが適用されることがあり、突然の不具合が発生するリスクがあります。そのため、定期的にブラウザのバージョン確認を行い、必要に応じてシステム提供者と連携して互換性の確認を行う体制を整えることが大切です。また、アップデートが原因で発生する不具合に備え、代替ブラウザを準備するのも有効な対策の一つです。
ブラウザの変更による操作性の影響
保育士や保護者がICTシステムを利用する際、使用するブラウザの違いによって操作性が変わる場合があります。例えば、ブラウザごとに表示の崩れや動作の遅延が発生することがあるため、システムがクロスブラウザ対応しているかを確認することが重要です。また、スマートフォンやタブレットでの使用が前提の場合、モバイル向けブラウザの最適化も必要になります。導入前に実際の利用環境で十分なテストを行い、保育士や保護者がスムーズにシステムを利用できるようにすることが求められます。
3-3. AI技術の活用と今後の可能性
AIを活用した記録・分析の自動化
AI技術を活用することで、保育記録の自動化が可能になります。例えば、音声入力を用いた保育記録の作成や、画像認識を利用した登降園管理などが考えられます。これにより、保育士が手作業で行っていた記録業務の負担が軽減され、より子どもと向き合う時間を確保できるようになります。また、過去のデータをAIが分析し、園児の健康状態や成長の傾向を把握することで、より個別最適化された保育を提供することが可能になります。
音声入力や画像認識技術の導入
近年のAI技術の進展により、音声入力や画像認識の精度が向上し、保育業務への導入が進んでいます。例えば、保育士が手が離せない状況でも音声入力によって記録を行うことができるため、作業の効率化が実現します。また、画像認識を活用すれば、園児の登降園時の顔認証や食事の様子の自動記録が可能になり、業務負担を軽減しながら精度の高い記録が残せます。これらの技術を適切に活用することで、より利便性の高いICT環境の構築が期待されます。
将来的な保育業務の効率化と課題解決
AI技術の発展は、保育業界においても業務の効率化を促進する可能性を秘めています。例えば、園児の健康状態の変化をAIが自動で検知し、異常があれば保育士にアラートを出す仕組みを構築することで、より迅速な対応が可能になります。また、過去の保育データを分析し、より効果的な保育プログラムを提案するなど、AIによるデータ活用が今後の保育現場において重要な役割を果たしていくでしょう。一方で、プライバシー保護やデータの適切な管理といった課題もあり、慎重な導入が求められます。
4. 導入のポイント
4-1. 導入前の準備チェックリスト
ICTシステムをスムーズに導入し、現場に根付かせるためには、事前の準備が非常に重要です。以下のチェックポイントを確認しながら、導入に向けた体制を整えていきましょう。
現状の課題整理(紙での記録にかかる時間、情報共有の遅れなど)
まずは、現在の業務フローにおける課題を明確に把握することが重要です。たとえば、「手書きの記録に時間がかかっている」「情報の共有にタイムラグがあり、引き継ぎがうまくいかない」「業務が属人化している」など、現場で感じている小さなストレスや非効率な部分を洗い出しましょう。これにより、ICTシステムに求める改善ポイントが具体化し、導入効果を最大限に引き出すことができます。
職員のITリテラシーの把握
職員のICTに対する慣れやスキルは個人差が大きいため、現場全体のITリテラシーを把握することが不可欠です。タブレットやスマートフォンの操作に慣れている職員が多い場合は導入がスムーズですが、操作に不安を感じている職員が多い場合は、操作のシンプルさや研修サポートの充実度を重視する必要があります。事前アンケートやヒアリングを通じて、職員の状況を把握しておくとよいでしょう。
保護者への説明方針
ICTシステムの導入は、園内だけでなく保護者との連携にも影響を与えます。特に連絡帳や登降園管理、健康記録のデジタル化を行う場合、保護者への丁寧な説明が必要です。どのような目的で導入し、どのような利便性があるのか、個人情報の管理はどうするのかを明確に伝えることで、安心感を持って利用してもらうことができます。説明会の開催や資料の配布、よくある質問への対応を事前に用意しておくとスムーズです。
予算の上限設定
ICTシステムは導入後も月額費用や保守費用などのランニングコストが発生します。導入可能な予算をあらかじめ設定しておくことで、選定段階で無理のないシステムを選ぶことができます。自治体や国の補助金制度を活用することで、初期導入コストを抑えることも可能です。費用対効果を明確にし、長期的な運用を見据えて計画を立てましょう。
必要な機能の優先順位付け
ICTシステムには多くの機能がありますが、すべてを導入する必要はありません。現場で本当に必要とされる機能を優先的に洗い出し、段階的に導入する方が現実的です。たとえば、「まずは登降園管理を自動化したい」「記録作業の効率化を最優先したい」「保護者との連絡機能を強化したい」など、目的に応じて優先順位を明確にすることが、導入の成功につながります。
4-2. ベンダー比較と選定のポイント
ICTシステムの導入を成功させるためには、自園に合ったベンダーを選定することが極めて重要です。多様なシステムが提供されている中で、以下の観点を軸に比較・検討することで、導入後のトラブルや不満を未然に防ぐことができます。
導入実績(他の保育園・自治体での導入事例)
まず注目すべきは、ベンダーの「導入実績」です。保育園やこども園への導入経験が豊富であれば、現場特有の運用に対しても柔軟に対応してくれる可能性が高まります。公式サイトなどで導入事例やユーザーの声を確認し、自園の規模や形態に近い事例があるかをチェックしましょう。自治体との連携実績があるベンダーであれば、補助金申請の支援や公的要件への対応もスムーズです。
操作体験が可能な無料トライアルの有無
実際に操作してみないとわからないのがICTシステムの使用感です。職員のITリテラシーや現場のフローに適しているかを見極めるためにも、無料トライアルを提供しているベンダーを選ぶことをおすすめします。可能であれば複数の職員に実際に操作してもらい、直感的に使えるかどうか、記録業務がスムーズになるかを確認しましょう。トライアル期間中に不明点を質問できる体制が整っているベンダーであれば、導入後も安心して利用を継続できます。
月額費用・初期費用・追加機能の課金体系
料金体系はベンダーごとに大きく異なります。初期費用が無料でも月額が高額だったり、基本機能は安価でもオプション追加によりコストが膨らむケースもあります。以下のような視点で総合的に比較することが重要です。
・初期導入費用は適正か
・月額料金にどの範囲の機能が含まれているか
・保護者アプリの利用に追加料金がかかるか
・サポートやメンテナンス費用は別途かかるか
また、3〜5年単位でのランニングコストを試算しておくことで、予算超過のリスクを避けることができます。
サポート対応時間と緊急時の連絡手段
システム導入後は、予期せぬトラブルや操作に関する不明点が発生することがあります。そのため、ベンダーのサポート体制は非常に重要な選定ポイントです。たとえば、以下のような点を確認しておくと安心です。
・平日だけでなく土日祝の対応は可能か
・電話・メール・チャットなど複数の問い合わせ手段が用意されているか
・緊急時に迅速な対応が受けられるか
・保守対応のSLA(サービスレベル合意)が明記されているか
導入後に「問い合わせたが返答が遅い」「トラブル時の対応が不十分」といった不満が出ないよう、サポートの質にも注目しましょう。
保護者アプリの有無と評価
保護者とのコミュニケーションをICT化する際には、保護者向けのアプリが用意されているかも重要な要素です。連絡帳や登降園通知、健康記録の閲覧など、日々のやりとりをスマートに行うためには、保護者アプリの操作性や信頼性が大きな影響を及ぼします。
アプリがある場合は、実際の利用者からの評価(App StoreやGoogle Playのレビュー)を確認し、操作のしやすさ、通知の正確性、バグの有無などを把握しましょう。また、iPhoneとAndroidのどちらにも対応しているか、言語設定に対応しているかといった点も確認しておくと、外国人保護者の対応にも役立ちます。
4-3. 導入後の社内体制づくり
ICTシステムは、導入しただけでは効果を発揮しません。職員全体が継続的に活用できるようにするためには、園内の体制づくりが非常に重要です。以下の取り組みを通じて、現場にICTを根付かせ、保育の質向上と業務の効率化を実現していきましょう。
ICT推進担当の設置
システム導入後は、現場の要望を吸い上げたり、職員からの質問に対応したりする窓口として、「ICT推進担当」を設けることをおすすめします。ICTに比較的詳しい職員を選任し、ベンダーとの連絡役や操作指導の役割を担ってもらうことで、現場の不安や混乱を最小限に抑えることができます。また、推進担当が積極的に活用の工夫を共有することで、職員全体のICTリテラシーも自然と向上します。
操作マニュアルの整備と配布
ICTツールの活用が定着するかどうかは、職員が「自信を持って使えるかどうか」にかかっています。そのため、誰でもすぐに参照できる操作マニュアルを用意することが大切です。図解やスクリーンショットを多用し、初心者にもわかりやすい構成を意識しましょう。また、紙媒体とデジタル(PDFや動画)を併用して配布することで、職員の好みに合わせて使い分けてもらうことができます。システムアップデートがあった際は、随時マニュアルも更新し、最新版を共有するようにしましょう。
研修・勉強会の実施スケジュール
導入初期には、ICTの活用方法を丁寧にレクチャーする研修や勉強会の実施が不可欠です。初回はベンダー主導で全体研修を行い、その後は園内で定期的にフォローアップ研修を開催することで、スキルの定着と継続的な活用につなげることができます。また、新人職員向けには操作研修を導入時のルーチンに組み込むことで、全員が均等に使いこなせる環境を構築できます。
徐々に使える範囲を広げる「段階的導入」
ICT導入は、一度にすべての機能を使おうとすると職員の負担が大きくなり、失敗のリスクが高まります。まずは「登降園管理だけ」「連絡帳だけ」といった具合に、業務の中で負担の大きい部分から優先して導入し、使い方に慣れてきた段階で徐々に他の機能を展開していく「段階的導入」が有効です。導入初期の混乱を避けるだけでなく、職員の心理的ハードルを下げることにもつながります。また、段階ごとに運用状況を評価・改善することで、より現場に合った使い方を確立できます。
5. よくあるトラブルとその対処法
ICTシステムを導入した保育現場では、操作に慣れるまでの間にさまざまなトラブルが発生する可能性があります。想定される問題に事前に備えておくことで、混乱を最小限に抑え、現場に安心して浸透させることができます。以下に、よくあるトラブルとその具体的な対処法を紹介します。
操作ミスによるデータ消失 → バックアップ設定の確認と復元方法
ICTシステムに不慣れなうちは、誤操作によって記録を誤って削除してしまうケースがあります。こうしたリスクに備えて、システムに自動バックアップ機能や履歴保存機能があるかを確認しておくことが大切です。万が一データを消失した場合に備え、ベンダーから復元手順をあらかじめ確認し、マニュアル化しておきましょう。ICT推進担当が復元対応を行えるよう、操作方法を共有しておくと安心です。
システム障害時の対応 → 紙ベースの代替運用手順の整備
クラウド型のICTシステムでは、ネットワーク障害やシステム不具合により一時的に利用できなくなることがあります。こうしたトラブルが発生した際にも、保育業務が止まらないよう、紙ベースでの記録方法をあらかじめ用意しておくことが重要です。登降園記録、健康チェック、連絡帳など、最小限必要な項目を記載できるフォーマットを準備し、「緊急時用マニュアル」として職員に周知しておきましょう。復旧後は、紙の記録内容をシステムへ入力し直す運用も必要になります。
保護者からの使い方質問が殺到 → FAQページ・動画マニュアルの共有
ICT導入直後は、保護者からアプリやWebシステムの使い方についての問い合わせが集中することがあります。この対応に追われて職員の負担が増すことを防ぐために、あらかじめ「よくある質問(FAQ)」を用意しておくと効果的です。操作方法やトラブル時の対処法を画像付きで説明した資料や動画マニュアルを作成し、保護者に配布・共有しておくことで、問い合わせ件数を大幅に削減できます。また、アプリ内や園のWebページにFAQを常時掲載しておくと、保護者も自ら確認しやすくなります。
職員の抵抗感 → 現場の声を聞く「ICT座談会」の開催
ICTに対する不安や抵抗感は、職員のスムーズな活用を妨げる大きな要因となります。特に、「操作が難しそう」「失敗したくない」「手書きのほうが慣れている」といった心理的なハードルを感じる職員に対しては、導入後のフォローが欠かせません。効果的な対策として、「ICT座談会」や「意見交換会」を定期的に開催し、現場の不満や悩みを共有できる場を設けましょう。ICT推進担当やベンダー担当者が参加することで、疑問や不安をその場で解消しやすくなり、職員の安心感と前向きな気持ちを引き出すことができます。
6. 行政・補助金活用のポイント
ICTシステムの導入には一定の初期費用やランニングコストがかかるため、自治体や国の補助制度をうまく活用することが重要です。近年は、保育業界におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進を背景に、ICT導入を後押しする補助金や交付金が整備されています。以下のポイントを押さえ、導入に向けた資金計画を立てましょう。
自治体によってはICT導入補助金の対象になるケースあり
市区町村によっては、保育園や認定こども園を対象とした「ICT導入支援補助金制度」を設けている場合があります。これには、システムの初期費用や機器(タブレット・PCなど)の購入費、操作研修費用が含まれることが多く、活用することで導入時の負担を大きく軽減できます。ただし、制度の有無や補助率、対象となる支出の範囲は自治体ごとに異なるため、早めに担当窓口へ問い合わせることが大切です。
こども家庭庁のICT化推進等事業
保育施設におけるICT導入を検討する際、国の支援制度として注目されているのが、こども家庭庁が実施する「保育所等におけるICT化推進等事業」です。この事業は、保育士の事務負担軽減や業務効率化を目的として、ICTツールの導入に必要な経費の一部を補助するものです。
対象となるのは、登降園管理や連絡帳、健康記録、給食管理などの業務に活用されるシステムや機器類(タブレット、パソコン等)で、保育所・認定こども園・小規模保育事業など幅広い施設が申請可能です。補助率や補助上限額は自治体によって異なるため、詳細は各自治体の窓口で確認が必要です。
この制度を活用することで、導入にかかる初期費用や更新費用の負担を軽減できるため、多くの保育施設が活用しています。補助を受けるには事前の申請が必要なため、導入を検討している段階で、早めに自治体の担当部署やこども家庭庁の公式情報を確認し、申請手続きを進めることが推奨されます。
地方創生テレワーク交付金も確認
保育分野に限らず、「地方創生テレワーク交付金」などが活用できるケースもあります。特に、保育士の業務負担軽減や業務効率化を目的としたICT導入は、これらの制度の趣旨に合致するため、対象となる可能性があります。複数の制度を組み合わせて活用することも視野に入れながら、最新情報をチェックしましょう。
導入前に、対象制度の窓口に早めの相談が重要
補助金や交付金の申請は、「導入前に申請が必要」であることがほとんどです。システム導入後に申請しようとしても補助対象とならない場合があるため、注意が必要です。また、申請には事業計画書や見積書、必要経費の内訳などが求められるため、準備にはある程度の時間を要します。導入を検討し始めた段階で、早めに自治体や関係機関の担当窓口に相談し、申請スケジュールや必要書類について確認しておくことが成功のカギとなります。